今、アメリカ大統領候補としてトランプ氏の話題が頻繁に取り上げられています。

最初は、候補の中の冷やかし的な存在、変わったオジサン的な存在でした。

しかし、今や彼が大統領になる可能性が現実的なものになりつつあります。

トランプ氏が合衆国大統領となると世界はどうなるのか?

彼は明確の政治のヴィジョン、政策、公約を述べてはいません。これは意図的にそうしているのかもしれませんが・・・。彼の主張を大枠で総合すると、「俺は今までの政治家ができなかったようなことを成し遂げるぞ!とにかくアメリカを変える!」と意気込んでいると言えるでしょう。

トランプ氏は過激な発言を連発していますが、非常にしたたかな男です。

予想するに、彼の主な目的はアメリカ国内にある不安要素や不満を一掃し、国内を再統一し、国内新体制を樹立することでしょう。今、アメリカ国内は不満と不安だらけです。アメリカ人からすると、世界秩序を保つためにかけている軍事費が国内経済を圧迫していることの不満、多くの移民によって白人の雇用が奪われていることの不満、移民がもたらす治安の不安、テロを引き起こすかもしれないイスラム教徒への不安(これはイスラム教への先入観と偏見に過ぎないが)、もっと言えば偉大なアメリカという自信と自尊心の喪失などを抱えています。アメリカが寛容さを忘れて排他主義的になりつつあるのは、自分たちの自尊心が失われているからです。これらの不満・不安要素をトランプ氏は一掃しようと主張しているのです。それが「偉大なアメリカを再び」という彼の発言にも表れています。

アメリカ国内の現状に不満を抱いている人々からすると、トランプ氏は救世主的な存在でしょう。既存の政治家はこれらの不満・不安要素の解決に取り組んできたが、どれも根本的な解決をできないでいた。そこにトランプ氏が現れた。彼は、政治家ではない。今までの政治家ができなかったことを成し遂げてくれそうだ。問題含みの世の中を全てひっくり返して、問題を根本的に解決してくれるのではないか。その様な期待がトランプ氏をここまで押し上げ、現在の絶大な支持を集める理由になっていると思われます。現状の政治の限界を感じている国民は、限界を打破してくれるカリスマ的な指導者を求めているのです。「不満と不安だらけの世の中をひっくり返して、もう一度偉大なアメリカを再びもたらすのだ!」それが、トランプ氏を支持する人々の心の声でしょう。

しかし、この構造、どこかで聞いたことがあるのではないですか。そう、ヒトラーが民主的な手続きを正当に踏みながら独裁政権を樹立した時の世論と同じ状況です。ヒトラーは独裁体制を手中に収めるまでに一度も強硬的、非合法的な手続きはしませんでした。完全に民主主義的な手続きを踏まえて独裁体制にすることが出来ました。国民がヒトラーを選んだのです。それを後押ししたのはドイツ国内の不満や不安の声、世論でした。その世論の声が、不満・不安の声が現状を打破してくれる、カリスマ的で強いリーダーシップを持った独裁政治家を熱望したのです。

当時のドイツ国内の情勢と、今のアメリカ国内の情勢は似通ったものがあります。そして同じように、カリスマ的で独裁的な指導者を選ぼうとしています。

仮に、トランプ氏が大統領にえらばれたとしても、直接アメリカが戦争を起こすというような可能性は少ないでしょう。何故なら、トランプ氏は国内の不満要素の一つである軍事費を縮小させたいからです。軍事費を抑えるために、世界の警察を辞め、世界各地に駐屯している米軍の規模を縮小させるか、同盟国に軍事費の負担割合を増加させるでしょう。もっと言えば、同盟国といえども自分の身は自分で守ってもらわないと困るということでしょう。この様な政策を取ることで、アメリカ国内の不満の要素は一つ解消するでしょう。

しかし、国内での不満や不安を大きく解消しようとすれば、その歪みは対外関係・国際情勢に影響を及ぼします。対外関係や国際情勢に対して強硬な姿勢を貫かなければ、国内の不満や不安を解消し、新体制を樹立することは出来ません。トランプ氏を支持する人もそれを希望するでしょう。対外関係を無視してでも「偉大なアメリカを再び」取り戻したいでしょう。しかし、アメリカほどの大国が、そのような方向転換をすれば世界の受ける影響は計り知れないものがあります。間違いなく世界のパワーバランスが崩れるでしょう。それは世界の安全保障のリスクを高めることになります。

アメリカが軍事的に支えてくれなくなれば、同盟国は各々の安全保障の為に自国の軍備を拡張することになるでしょう。それは自国が生存するためには必要不可欠のことです。アメリカが退いた分を自国で補わなければならないのです。アメリカが世界中で取っていたバランスが失われ、各国がそれを補おうとする。その時に国同士の利権が今まで以上に直接ぶつかることになり、世界的なリスクが高まることが想定されます。

トランプ氏が合衆国大統領になれば、アメリカ国内の不満や不安は一時的に解消するかもしれませんが、結果的に国際的なリスクに巻き込まれ、アメリカ自身が新たな火種を生み出す可能性もあるのです。