SMCI指標の理論的基盤

今回、実質試合支配率(SMCR)とポイント実質支配レーティング(SCRP)という試合の趨勢を分析する2つの指数を考案しました。(以下、一度紹介した用語は略語を用いて表記します)

SMCRはある選手の実質的に試合を支配する力の指標、SCRPはある選手のポイントを獲得する実質的な力の指標です。そしてこの2つの指数を総称して実質試合支配指数(SMCI)と呼びます。

テニスの試合(Match)に勝つには、相手選手よりも多くのセットを取る必要があります(3セットマッチなら2セット先取、5セットマッチなら3セット先取)。そして、セットを奪うには相手選手よりも多くのゲームを取る必要があります(基本的に6ゲーム先取、タイブレークでも7ゲーム先取)。そして、ゲームを奪うには相手選手よりも多くのポイントを獲得する必要があります(デュースならば2点差以上先取、タイブレークならば7点以上2点差先取)。

つまり、一般にPoints>Games>Sets>Matchが成り立ちます。

故に基本的にテニスの試合には相手選手よりも多くのポイントを獲得した選手が勝つということが成り立ちます。もちろん例外はあります(具体例は後述します)が、基本的には上記の前提が成り立ちます。

そして、より多くのゲームを奪うには1度はブレークする必要があります(タイブレークならばミニブレーク)。故にいかにサービスポイントが多くても、リターンポイントが少なければブレークすることが出来ずに勝てません。逆にいかにリターンポイントが多くとも(つまり沢山ブレークしても)、サービスポイントが少なければ(つまりキープできなければ)勝てません。

以上のことから結局、試合の勝利に結びつくのは、獲得したポイントの総数(サービスポイントとリターンポイントの合計)のより多い選手ということになります。つまり、ある選手の1ポイントを取る力=1ポイントの獲得性を指標として表せれば、その選手が1つの試合をどれだけ支配していたのかを測ることが出来ます。SMCIは正にその指標です。

しかし、SMCIは、ある選手がその試合をどれだけ実質的に支配していたのかを測ることはできますが、指標が高い選手が100%勝利するとは限りません。SMCIは勝因・敗因を分析することは出来ますが、勝敗を決める指標ではありません。あくまで、試合の支配の度合いを測る指標であるとご理解ください。SMCIが勝敗を決める指標ではない理由は、一般にテニスの試合はより多くのポイントを獲得した選手の方が勝ちますが、例外もあるからです。その例外は、より多くのポイントを取った選手の方が負けるという場合です。

以下の表の通りです。

smci2

smci3

例えばB選手が常に自分のサービスゲームをラブゲームキープし、A選手のサービスゲームが常にデュースにもつれるとします。そして、第9ゲームにおいてA選手がデュースの末何とかブレークし、第10ゲームを辛くもキープすれば、ポイント上はB選手が上回っているがセットを取ったのはA選手になるという事が起こります。また、A選手がブレークできずに同じような事態が続き、何とかタイブレークをものにすることができたとしても、ポイント上はB選手が勝っているのに、セットを取ったのはA選手になります。B選手が試合の大半を有利に進めていたが、A選手が勝負所を抑え、ワンチャンスをものにしたからです。この場合、基本的にSMCIはB選手に有利な指標が出ますが、勝利したのはA選手という事態が発生します。

上述したようにSMCIはあくまで、ある選手の試合の実質的な支配度を測る指標です。勝敗を反映できない場合もあります。

 

実質試合支配指数(SMCI)には実質試合支配率(SMCR)とポイント実質支配レーティング(SCRP)の2系列の指標に分けられます。SMCR系は試合自体の実質支配度SCRP系はポイントを実質的に奪う力の度合いのことです。

そしてSMCIは優勢指数(AI)と劣勢指数(DI)の2項目から成り立っています。

SMCI=AI-DI

優勢指数(AI)から劣勢指数(DI)を引くことで、実質試合支配指数(SMCI)を導き出します。

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1.    優勢指数(AI)

AIは獲得性・積極性・精度性・効率性の4つの要素から構成されています。

[SMCR系]試合優勢率(MAR)=獲得率(GR)+積極率(AR)+精度性(PR)+効率性(ER)

[SCRP系]ポイント優勢レーティング(ARP)=総得点(TPW)+攻撃的得点(AP)+積極性差益(AM)+得点差益(GM)

MARは、ある選手がどれだけ試合において主導権を握っているかを示す指数。

ARPは、ある選手のポイントを奪う力の大きさを示す指数。

MARとARPが高いほど、自分の強みを出せており、より試合を優勢に展開していると言えます。

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1-1 獲得性(Gains)

[基本要素] 総得点(TPW)

[SMCR系] 獲得率(GR)=TPW÷総点数(TPP)

[SCRP系] ポイント獲得性(GOP)=TPW

GRは、ある選手が試合の中でどれだけポイントを獲得したかを示す指数。

GOPは、ある選手のポイントを獲得する力の大きさを示す指数。

基本的にGRとGOPが高いと勝利に結びつく場合が多いと言えます。試合の支配性に大きく関わってくる要素です。

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1-2 積極性(Aggressive)

[基本要素] 攻撃的得点(AP)=ウィナー(W)+対戦相手のフォーストエラー(OFE)

[SMCR系] 積極率(AR)= (AP÷TPP)+(AP÷TPW)

[SCRP系] ポイント積極性(AOP)=AP

ARは、ある選手が試合の中でどれだけ積極的・攻撃的だったかを示す指数。

AOPは、ある選手の獲得したポイントにける積極性・効率性を示す指数。

ARとAOPは自分のウィナーと相手選手の強いられたエラーポイントから構成されており、ある選手が自分からどれだけ積極的に攻めていったのかを測れます。プレーとポイントにおける積極性が現れます。

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1-3 精度性(Precision)

[基本要素]  積極性差益(AM)=AP-アンフォーストエラー(UE)

[SMCR系]  精度率(PR)=(AM÷TPP)+(AM÷TPW)

[SCRP系] ポイント精度性(POP)=AM

PRは、ある選手の試合の中における攻撃がどれだけ正確で、精度が高かったかを示す指数。

POPは、ある選手のポイントにおける正確性・精度を示す指数。

PRとPOPは、AMからUEを差し引いた値で構成されており、ある選手の攻撃における精度を測れます。仮にある選手がどれだけ積極的に攻めていても、UEが多ければ、それは精度が高い攻撃ではありません。ARとPOPが高いほど精度が高く、マイナスの値になる場合はUEが多すぎるということです。

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1-4 効率性(Efficient)

[基本要素]  得点差益(GM)= TPW-失点(PL)

[SMCR系] 効率(ER)= (GM÷TPP)+(GM÷TPW)

[SCRP系] ポイント効率性(EOP)=GM

ERは、ある選手の試合の中における攻撃の効率を示す指数。

EOPは、ある選手のポイントにける効率性を示す指数。

ERとEOPは、TPWからLPを引いた値で構成されており、ある選手の攻撃における効率の良さが測れます。仮にある選手がどれだけポイントを奪ったとしても、失点が多ければ、それは効率の悪い攻撃になります。

ERとEOPが高いほどポイントを獲得する効率が良く、マイナスの値になる場合はLPが多すぎるということです。

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2.劣勢指数(DI)

DIは損失性と不正確性の2つの要素から構成されています。

[SMCR系] 試合劣勢率(MDR)=損失率(LR)+不正確率(IR)

[SCRP系] ポイント劣勢レーティング(DRP)=PL+UE

MDRは、ある選手が試合においてどれだけ劣勢に立たされていたのかを示す指数。

DRPは、ある選手がポイントを奪われ、失点を犯す弱さの度合いを示す指数。

MDRとDRPが高いほどより劣勢に立たされており、自分の弱さを引き出され、相手に主導権を握られていたと言えます。

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2-1 損失性(Loss)

[基本要素] 失点(PL)

[SMCR系]  損失率(LR)=(PL÷TPP)+(PL÷合計失点数(TPL)) *TPLとは両選手の失点合計数

[SCRP系] ポイント損失性(LOP)=PL

LRは、ある選手が試合においてどれだけ損失を被ったかを示す指数。

LOPは、ある選手のポイントにおける損失性を示す指数。

基本的にLRとLOPが高いほど劣勢に立たされており、相手選手が主導権を握っていたことになります。逆にLRとLOPが低い場合はある選手の守備力の高さを示すこともあります。

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2-2 不正確性(Imprecision)

[基本要素] アンフォーストエラー(UE)

[SMCR系]  不正確率(IR)=(UE÷TPP)+(UE÷TPL)

[SCRP系]  ポイント不正確性(IOP)=UE

IRは、ある選手の試合における不正確性とリスクバランスを示す指数

IOPは、ある選手のポイントにおける不正確性とリスクバランスを示す指数。

IRとIOPが高いほど自ら失点を引き起こし、相手にポイントを献上したことを示します。また、IRとIOPは攻撃におけるリスクのバランスも示し、どれだけリスクを負って攻撃を仕掛けていたかが測れます。リスクが高すぎる場合は自滅的であったということになります。

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3.実質試合支配指数(SMCI)

SMCIはAIからDIを引くことで導き出せます。

[SMCR系] 実質試合支配率(SMCR)=MAR-MDR

[SCRP系] ポイント実質支配レーティング(SCRP)=ARP-DRP

SMCRは、ある選手が試合をどれだけ実質的に支配していたかを示す指数。

SCRPは、ある選手がポイントを実質的に支配する力の大きさを示す指数。

SMCRとSCRPはそれぞれ優勢指数(AI)から劣勢指数を(DI)引くことで、ある選手が試合をどれだけ実質的に支配しており、ポイントを獲得する実質的な力どれほどなのかを示します。

実質的と強調するには、それがSMCI指標の特徴であり意義だからです。例えば、A選手の優勢指数(AI)が高く、一見すると試合を優勢に進めているように見えるとします。しかし、同時に劣勢指数(DI)も非常に高い場合、互いの指数が打ち消し合うこともがあいます。その場合、A選手は実質的には試合を支配できていなかったことが示されます。

逆にB選手の優勢指数(AI)が突出して高くなくとも、劣勢指数(DI)が非常に抑えられていれば、SMCI指標は高い値を示します。この場合、一見するとB選手がそこまで試合を優勢に展開しているように見えなくても、相手選手にほとんど主導権を握らせなかった為に、B選手の方が実質的には試合を支配していたということが示されます。

以上からSMCI指標(SMCR指数およびSCRP指数)の意義は、実質的に試合を支配していた選手はどちらなのか、またその支配の仕方(例えば、積極性はやや低かったが精度性が高く、効率性も良かった為に主導権を握れていた・・・など)を測ることができます。そして、SMCI指標からある選手の試合における勝因および敗因を読み解いていくことが出来ます。

しかし、冒頭の説明であるように、テニスの試合とは不思議なもので、ある選手が実質的に試合を支配していても、勝ったのは相手選手だったということが起こります。それは特に大接戦の場合に発生します。また、試合を優勢に押し進めていたのはA選手だったけれども、B選手は劣勢に立たされながらも僅かなチャンスをものにして、勝ち切ったということも起こります。

SMCI指標もまた、テニスという試合をある部分から切り取る評価の1つに過ぎません。当然、あらゆる角度から眺めることも、全体を俯瞰することもSMCI指標では不十分です。テニスの試合の全体像をつかむには、様々なデータや指標や評価から多角的に分析する必要があります。SMCI指標はその道具の1つです。

もしSMCI指標をテニスの試合の素晴らしさ、楽しさ、面白さ、発見を広げる1つの道具としてお役立て頂いたならば、これは最大の喜びです。

機会があれば、簡単に入力できるSMCI指標のテンプレートの配布と、指標の使い方の記事を投稿したいと思います。

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