以下の内容は田川健三『書物として新約聖書』に準拠しています。
「異端」から正典が始まった
キリスト教の歴史の中で初めてキリスト教独自の正典を持とうという試みを成したのは、正統派のキリスト教ではなく、むしろ彼らによって「異端」として排除されたマルキオンなる人物でした。正統派のキリスト教よりもマルキオンの方が実は一歩先んじて「純粋」なキリスト教を実現してしまっていたのです。
マルキオンによれば、「キリスト教徒が旧約聖書を権威として担ぐのは間違っている。旧約聖書というものはもう克服されたものではないか。既に自分たちが克服したはずのものを自分たちの絶対的権威にする訳にはいかないだろう」ということです。その意味でマルキオン及びその信奉者たち(マルキオン派)は、キリスト教の出発点の思想を真に素朴且つ忠実に信奉しようとしたと言えます。そこでマルキオンは、旧約聖書的な要素を一切排除する代わりとして、キリスト教独自の文書を正典として確立しようとしました。キリスト教史上初めて新約正典を持とうという発想を持ったのも、それを実行に移したのも、マルキオンだったのです。